川柳人協会

川柳人協会会員の作品から

 川柳は課題を与えられて作品を作ることが多く、ことに句会や大会ではほとんどが課題を与えられて作句の机に向かうことになります。今回は課題を中心にした協会員の作品を紹介致しますので、そこから川柳の一つの側面を理解していただきたいと思います。作品は平成22年に行なわれた川柳人協会主催による句会・大会・誌上大会のものです。

 各題からそれぞれ5句ずつを抽出致しますが、上位の作品ということではなく、課題吟の面白さを伝えると思われる作品を選んでみました。

川柳文化祭(平成22年11月7日 台東区生涯学習センター)から

「蹴る」   田中八洲志選
黄金の足から億を叩き出す秋山 茂子
一票の恩を忘れたマニフェスト森崎 清三
裏側で蹴りあっている平和論篠田 東星
玉の輿蹴って貴方の荷を担ぐ亀井  哲
捨て扶持を蹴りサムライの顔になる上村  脩

「子ども」   石川とく江選
少年が少年法に縛られるいしがみ鉄
胎動に子ども手当てというリズム安藤 波瑠
子には子の理屈があった反抗期大野 征子
ランドセル疑問符ばかり追い掛ける加賀谷三帆
アイドルのグッツで埋まる子のお城堀江 加代

「 竿 」   篠田 東星選
燃え尽きるまで旗竿を振る正義篠崎 紀子
旗竿に乗ると日の丸上機嫌潮田 春雄
子沢山物干し竿も万国旗國嶋  武
ペアルック物干し竿でそっぽ向き和泉あかり
祝日の旗珍しい目で見られ大川幸太郎

「辛抱」   阿部  勲選
座禅終え五欲がどっと沸いて出る廣島 英一
平成のおしん不況を飼育する小倉 利江
老いの樹の細さ弱さを飼い馴らす小林 良恵
就活してますおしんやってます平野さちを
初心者の指導忍耐強くなる小山しげ幸

「澄む」   米島 暁子選
ライバルの澄んだ瞳に救われる藤 あかね
友禅へ水の流れが透きとおる田中八洲志
飢餓の子の目が澄んでいる耐えている佐藤 晴江
澄んだ水飲める幸せ噛みしめる岩瀬 恵子
澄んだ目で写経の筆へ正座する岩田 笑酔

「 税 」   堀井  勉選
納税の自負へ芋虫胸を張り五十嵐淳隆
ありがとうごめんなさいと税が来る永井 静佳
他国にはポンと税から援助金小金沢綏子
税務署の言う見解に押し切られ上田 健太
税金を払い一人前の自負花道 歌子

「素朴」   竹本瓢太郎選
歳時記とスローライフで生きてゆく太田ヒロ子
休耕地花の手入れをする少女若月  葉
ひらがなで書く母の字があたたかい木崎 栄昇
冬至の日は母やっぱりカボチャ煮る近江あきら
里山に生きてブレない飯茶碗荻原美和子

「 旅 」   北山 蕗子選
パノラマの地図が呼んでる旅ごころ大戸 和興
望郷の念やみ難い北帰行増田 幸一
ローカルの旅円空に出遭う秋松岡恵美子
また来たい宿と日記をしめくくる内田 博柳
果てしなき旅へ自画像老いてゆく西潟賢一郎

川柳文化祭誌上大会(平成22年11月7日発表)から

「きっかけ」   中田たつお選
イベントが済んだら変える旗の色播本 充子
孤独死の記事へ同居を考える野口 節子
好きなこと見付けニートの足洗う清水 潮華
恥かいた日から仕事の鬼となる安藤 紀楽
ペンネーム別な私が走り出す岡部 暖窓

「空想」   上村  脩選
定年の干潟で遊ぶ影法師四分一周平
厖大な夢親だけは笑わない平蔵  柊
理想論ばかり婚活弄ぶ南川 桂子
身の丈を越え空想をでかく盛る石川とく江
ヒーローになってるらしい子の寝言久保田見乗

「決断」   齊藤由紀子選
懐の辞表男の馬鹿でいい田中寿々夢
進退を決めて枕を高くする橋本 一水
子育てが終わる女へリニューアル岡部 美雄
真っ新な思考へ託す社の窮地中西 隆雄
本腰へ帰化して馴染むプロの道佐藤 晴江

「 声 」   てじま晩秋選
ソプラノを奏でる妻のスケジュール渡辺  梢
舟歌が川面の風と戯れる岩田 明美
ロボットになれと囁く天の声竹田 光柳
街角の声が牛耳る民主主義黒崎 和夫
列島が赤ちゃんの声聞きたがり廣田 悦子

「誘う」   金子美知子選
ケータイのサイトが甘い蜜を出す宮内みの里
甘い水裏を嗅いでる都市ボタル瀧  正治
ケータイへ桃源郷の夢を盛る田島 世四
風に揺れ赤提灯が差し招く長谷川路水
サンプルが疑似餌のように並べられ後藤 育弘

「 白 」   荻原美和子選
真っ白な産着へ虹を縫い合わす清水香代子
白無垢を脱いだ時からわたし流花井よう子
女です美白の文字に目が止まり馬場 美昭
飯粒が目立つ老母の涎掛け小西 章雄
何色に染める白地の勝負服仲沢 ちね

「進む」   津田  暹選
ロボットに無駄な日はない進化論長尾 美和
それなりに行進曲に乗るロマン伊藤 我柳
また別な老人が行く流れ雲山口安次郎
前進のファイトを拒む不況風森  良子
老人を零して進むIT化安藤 波瑠

花久忌(平成22年2月11日 竹の塚・東岳寺)から

「 旗 」   川俣 秀夫選
少子化に浮く父の旗母の旗相良 敬泉
旗色を読んで策士がつぐ二の矢丸山しげる
勝利者の旗に群がる宇治素性相良 博鳳
日の丸よ遠慮し過ぎていませんか堀井  勉
再びを目指して返す優勝旗津田  暹

「慰める」   都倉 靖子選
説教の結び目に置く人情味川俣 秀夫
友情の酒に本音がこぼれ出る安藤 紀楽
頂点でベートーベンを聴くゆとり米島 暁子
虫食いの脳で夫婦が癒し合う渡辺  梢
寄せ書きの文字が励ます闘病記西潟賢一郎

「曲折」   國嶋  武選
結局は鞘に納まるくされ縁亀井  哲
屈折の涙も混ざる給料日大野 征子
一言が転機となった師の教え中西 隆雄
百歳の顔に轍が刻まれる村田 倫也
家裁まで行った夫婦の共白髪野口 節子

「偶像」   いしがみ鉄選
偶像を砕き少年脱皮する篠田 東星
ビーナスの裸身に春が舞い降りる都倉 靖子
偶像を作って壊すマスメデア阿部  勲
モアイ像まだまだ謎のままで立ち堀井  勉
運慶の銘仏像の価値を決め小倉 利江

「刻む」   津田  暹選
俎は不要カッターフル稼働太田ヒロ子
波風を立て刻刻と龍馬来る相良 博鳳
職人の鑿ナノテクを気にしない上村  脩
欠陥の烙印背負うエンブレス上田 健太
負け犬の野望は鉈で切り刻む川俣 秀夫

可有忌(平成22年5月5日 蔵前・龍宝寺)から

「誤算」   近江あきら選
計算が狂って鬼に笑われるいしがみ鉄
枷を外して定年に羽が生え久保田見乗
政権がとれて金権突っかれる及川竜太郎
合理化にノアの洪水来る予感廣島 英一
浮動票またも予測を狂わせる内田 博柳

「料理」   和泉あかり選
大根の皮絶品に母は煮る金子美知子
懐石に手持ち無沙汰の食い盛り田中八洲志
豪快に出刃一丁の浜料理増田 幸一
ミシュランの味で消された妻の愚痴齊藤由紀子
色取りに添える野菜の値に負ける成田 孤舟

「献身」   渡辺 貞勇選
花の笑みヒト科へ何も求めない永井 静佳
被災地の瓦礫に汗を惜しまない願法みつる
よぼよぼの人が押してる車椅子近江あきら
毒食えば皿までボクの本気です和泉あかり
おふくろは一度も不幸口にせず佐藤 美文

「変える」   佐藤 美文選
角かくしして嫁いでは来たけれど橋本 一水
どんな手で次は騙そうマニフェスト江畑 哲男
路線変更楢山遠まわり渡辺 貞勇
フライパン一振り首をすげ変える篠崎 紀子
移り気なタンポポと棲む路地の隅潮田 春雄

「勇気」   大木 俊秀選
割り込んで座るヒップが勇ましい石川とく江
姥捨てへ赤い鼻緒で楚々と行く金子美知子
見逃しはせぬ空振りの恋でよい津田  暹
横綱に張り手かまして睨まれる村田 倫也
ケータイを叱り車内の眼を集め大野 征子

川柳忌(9月23日 蔵前・龍宝寺)から

「 線 」   島田 駱舟選
直線の一鞭馬が風になる堀江 加代
不動産屋の線引きはぬかりない中島 和子
ホームレスに運命線を笑われる佐藤 孔亮
横線に並ぶと誰か走り出す平蔵  柊
ごね得が国境線を舐めにくる長野建八郎

「リズム」   加賀谷三帆選
飴切りのリズムが覇者の胸にある小金沢綏子
間延びしたリズムで踊る消費税阿部  勲
人間のリズムで空ける手動ドア太田ヒロ子
点滴のリズムで老いが生かされる上村  脩
手拍子で親子が唄う童歌長谷川路水

「ゆるい」   いしがみ鉄選
速球をスローボールの後に投げ國嶋  武
瀬戸際のゆるいジョークに狼狽える荻原美和子
太陽のキスに崩れる雪の精小倉 利江
軟投に力んだバット空を切る近江あきら
流行る気へスローカーブのアカンベー島田 駱舟

「浮く」   竹田 光柳選
二つ三つ浮いた話も足す自伝上田 健太
大臣を替え支持率をアップさせ安藤 紀楽
天と地の狭間で浮いた高齢者金子美知子
島国の軽さ政治も人も浮き齊藤由紀子
えこひいき人間性が浮き上がる永井 静佳

「記憶」   川俣 秀夫選
底無しの記憶妻には逆らわず島田 駱舟
人間の怖さは鬼が知っている米島 暁子
金銭が絡むと記憶力冴えるいしがみ鉄
鬱の字が書けて安堵の記憶力竹田 光柳
愛された記憶を消した手切れ金大野 征子

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